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岸田文雄首相と中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領による首脳会談の共同宣言で、日中韓が自由貿易協定(FTA)の締結に向けて「交渉を加速していくための議論を続ける」と明記した。中断していた交渉を再開するとの合意である。
経済が悪化する中国の要請を受けた合意とされる。日中両国には政治的軋轢(あつれき)がある中でも経済で結びつく現実がある。日韓で中国に公正なルールに基づく自由貿易を促せるならば、協定は日本にも利をもたらそう。
だが、そのための交渉を現段階で再開することには、強い疑問を感じる。
中国は東京電力福島第1原発の処理水を巡り日本産水産物を不当に輸入停止したままだ。習近平国家主席は日米欧が懸念する中国製品の過剰生産について問題の存在すら認めない。
そうした身勝手な姿勢を改めようとしない中国を相手に実のある交渉に入れるのか。貿易協定の交渉は国益のぶつかり合いとなりがちだが、前提として自由貿易を追求する当事国間の共通理解が必要だ。中国にそれが見受けられない以上、日本は前のめりになるべきではない。
日中韓は既に「地域的な包括的経済連携(RCEP)」にも参加しており、これよりも高水準の連携を日中韓FTAで目指す。自動車の関税撤廃や、中国政府による補助金、国有企業優遇なども議論する見通しだ。
交渉で同じ土俵に立てば中国に変革を促せるとの見方もあろう。RCEPでも指摘されたことだ。だが現状をみると、中国はRCEP参加や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟申請で自由貿易推進を訴えつつも、経済的威圧などの強硬姿勢はやめない実態がある。
日中韓FTA交渉を再開するというならば、その前に科学的根拠のない処理水問題での輸入停止を必ず即時撤廃させるべきだ。過剰生産された安価な中国製品が世界の市場を歪(ゆが)めている問題も、交渉前に適切な対応を約束させるべきである。
中国が今回、FTA交渉を望んだのは貿易を通じて国内経済を活性化させたいからだろう。加えて、日米欧などが対中依存を減らそうと結束を強める中、これを分断して自らの孤立を回避する狙いもあろう。日本は中国の思惑を踏まえて、もっとしたたかに動くべきである。
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2024年5月29日付産経新聞【主張】を転載しています